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ダウンカットとアップカットの違い|回転方向では決まらない

ダウンカットとアップカットの違い(下向き削りと上向き削り)を、回転方向ではなく送りと回転の関係で決まることを明確に図解した、誰もがクリックしたくなるアイキャッチ画像。タイトルとJIS定義への誘導付き。キャリア相談への案内も。

皆さんは、ダウンカットとアップカットの違いを説明してくださいと言われて、すぐに答えられるでしょうか。

結論から書きます。ダウンカットとアップカットの違いは、工具の回転方向では決まりません。 決めているのは「回転の向きと送りの向きの関係」であり、市販のエンドミルはそのほとんどが右回転です。同じ右回転の工具でも、加工する壁のどちら側を工具が通るかで、上向き削りにも下向き削りにも変わります。

ここを取り違えたまま図面を描くと、面粗さの指示が現場で守れなかったり、内隅のRが小さすぎて工具が悲鳴を上げたりします。私自身、設計を始めて2年目のころ、内隅R5の指示にφ10のエンドミルを当てさせて加工現場からやり直しを求められた経験があります。あのとき理由を説明できなかったのが、加工方向を真面目に勉強するきっかけでした。

この記事では、ダウンカットとアップカットの正体をJISの定義までさかのぼって整理し、切りくず厚さを実際に計算して2つを比較します。そのうえで、設計者として図面に何を書くべきかまで落とし込みます。読み終えるころには、加工現場との会話が一段深くなっているはずです。

目次

ダウンカットとアップカットの違いが分からないのは、あなたのせいではありません

ダウンカットとアップカットの違いに混乱する若い設計者と、JIS定義の関係を教える先輩設計者の図解。図面に描かれない重要な関係性を表している。

まず、この用語でつまずくのは珍しいことではありません。むしろ、教科書や解説記事の書き方に原因があると私は考えています。

図面には書かれないのに、寸法と面粗さは変わる

加工方向は、通常の機械図面には現れません。第三角法の投影図にも、寸法公差にも、幾何公差にも「どちら向きに削るか」を書く欄はないのです。加工方法の選択は加工者に委ねられている、という前提があるからです。

ところが実際には、加工方向を変えると仕上がりは確実に変わります。同じNCプログラムで、同じ工具、同じ回転数と送りでも、上向きに削るか下向きに削るかで面粗さも工具寿命も別物になります。図面に書かれないのに結果が変わる。ここに、設計者が知っておく価値があります。

図面に書けないことこそ、設計者が知っておくべき領域です。

教科書の説明が「回転方向」で止まっている

多くの解説は「工具が右に回るならダウンカット」といった説明で終わっています。これは半分正しく、半分間違っています。

正確には、回転方向は判断材料の片方でしかありません。もう片方の「送り方向」とセットにして初めて、上向きか下向きかが決まります。片方だけを覚えると、加工形状が変わったとたんに答えが逆になり、混乱します。

2つを分けているのは「関係」であるという事実

先に核心を書いておきます。ダウンカットとアップカットを分けているのは、工具そのものの性質ではなく、工具と工作物の相対的な関係です。

同じ工具、同じ回転方向でも、加工する面が工具の右側にあるか左側にあるかで結果は逆転します。この一点さえ腹に落ちれば、あとの話はすべて自然につながります。

ダウンカットとアップカットの正体|JISの正式名称は「下向き削り」「上向き削り」

JIS B 0106:2016における「上向き削り(アップカット)」と「下向き削り(ダウンカット)」の定義を解説する、先輩設計者のイラスト。歴史的な由来も図解。

用語の混乱を解くには、まず正式な定義に当たるのが近道です。

JIS B 0106:2016 が定めている定義

日本産業規格の「JIS B 0106:2016 工作機械-部品及び工作方法-用語」には、次のように定義されています。

用語JIS B 0106:2016 の定義
上向き削りフライスの回転切削運動の向きと工作物の送りの向きとが反対のフライス削り
下向き削りフライスの回転切削運動の向きと工作物の送りの向きとが同じフライス削り

出典:JIS B 0106:2016 工作機械-部品及び工作方法-用語

注目していただきたいのは、どちらの定義にも「向きと向きとが」という表現が入っている点です。規格は最初から、片方の向きだけでは定義できないと言っているわけです。「右回転ならダウンカット」という説明が成り立たない根拠は、実はJISそのものにあります。

「ダウンカット」「アップカット」はJIS用語ではない

もう一つ、意外に知られていない事実があります。JIS B 0106:2016 の中に「ダウンカット」「アップカット」という語は収録されていません。規格上の正式名称は、あくまで「下向き削り」「上向き削り」です。

つまり私たちが日常的に使っている「ダウンカット」は、現場で定着した通称ということになります。海外の工具メーカーの資料では、ダウンカットに相当する加工をクライムフライス(climb milling)、アップカットに相当する加工をコンベンショナルフライス(conventional milling)と呼ぶことも多く、呼び名は一つではありません。

用語が複数ある領域では、言葉の定義から確認する習慣が効きます。言葉が揺れているところには、たいてい理解の抜けが隠れています。

なぜ「上」「下」なのか|横フライス盤時代の名残

「下向き削り」という名前に違和感を覚えた方もいるでしょう。エンドミルで側面を削るとき、刃は横に動くのであって、下を向いているわけではないからです。

この呼び名は、横形フライス盤で平フライス(プレーンカッタ)を使っていた時代に由来します。工作物の上に水平軸のカッタがあり、刃が工作物に対して下向きに入っていくか、下から上へすくい上げるように入っていくかで、上下の名前が付きました。マシニングセンタが主流になった今も名前だけが残っている、という構図です。

背景を知ると、名前を丸暗記しなくても筋道で思い出せるようになります。

【検証】「工具が右回転ならダウンカット」は本当に成り立つのか

右回転工具ならダウンカット」という誤解を検証するイラスト。同じ工具でも外形とポケット、時計回りと反時計回りでダウンカットとアップカットが逆転することを図解。

ここが本記事の中心です。よく見かける説明を、実際に成り立つかどうか検証していきます。

前提の確認|市販のエンドミルは、そのほとんどが右回転

まず事実確認です。市販されている汎用のエンドミルやフライスカッタは、大半が右勝手(右回転で使う工具)です。マシニングセンタのプログラムでも、主軸正転を指令するM03が標準的に使われます。

ここで一度立ち止まってください。もし「右回転=ダウンカット」が正しいなら、世の中の加工はほぼすべてダウンカットになり、アップカットという言葉が存在する意味がなくなります。この時点で、回転方向だけで決まるという説明は破綻しています。

検証|同じ右回転でも、壁のどちら側を通るかで結果は逆になる

では何が結果を分けるのか。工具が加工する壁(材料が残っている側)の、どちら側を通るかです。

右回転の工具を使い、工具が進行方向に向かって進むとき、判断はこうなります。

  • 進行方向に対して右手側に材料があれば、下向き削り(ダウンカット)
  • 進行方向に対して左手側に材料があれば、上向き削り(アップカット)

この判定は、切りくずの生まれ方を追えば確認できます。右回転の工具で右手側の壁を削る場合、刃は材料に食い込んだ瞬間が最も厚く、抜ける瞬間にゼロへ向かいます。左手側の壁を削る場合はその逆で、厚さゼロから始まり、抜ける瞬間が最も厚くなります。

切削工具メーカーのサンドビック・コロマントも、下向き削りについて「切りくず厚さは切削開始から減少し、切削終了時には徐々にゼロになります」、上向き削りについて「切りくず厚さはゼロから始まり、切削の終わりに向かって大きくなります」と説明しています(出典:サンドビック・コロマント「ダウンカット vs. アップカット」)。

輪郭の回り方に置き換えると迷わない

現場では「材料が右手側か左手側か」よりも、輪郭をどちら回りに進むかで覚えるほうが実用的です。右回転の工具を前提に整理すると、次のようになります。

加工形状工具の進む向き材料の位置工具径補正削り方
外形(凸形状)時計回り進行方向の右手G41(左補正)下向き削り
外形(凸形状)反時計回り進行方向の左手G42(右補正)上向き削り
ポケット(凹形状)反時計回り進行方向の右手G41(左補正)下向き削り
ポケット(凹形状)時計回り進行方向の左手G42(右補正)上向き削り

外形とポケットで回り方が逆になるのは、材料が輪郭の内側にあるか外側にあるかが逆だからです。どちらもG41が下向き削りになる、という対応で覚えておくと実務で混乱しません。

以上をまとめると、冒頭の「工具が右回転しているのがダウンカット、左回転しているのがアップカット」という説明は、成り立たないというのが検証結果です。回転方向は必要条件の一つにすぎず、送り方向と組み合わせて初めて答えが決まります。

上向き削りと下向き削りを数字で比較する|切りくず厚さを計算してみる

側面加工における最大切りくず厚さhmaxの計算式と、φ10エンドミルの計算例をまとめたイラスト。ダウンカットとアップカットで厚さが現れる順番が逆であることを図解。

定性的な説明だけでは腹に落ちません。ここでは実際に数字を出して比較します。

切りくず厚さの最大値を求める式

側面加工における最大切りくず厚さ hmax は、1刃当たりの送り fz、工具直径 D、半径方向の切込み ae から幾何学的に求められます。

hmax = fz × √( (2ae/D) × (2 − 2ae/D) )

工具半径を R(=D/2)とすると、ae/R が小さいほど hmax は fz より小さくなる、という関係です。実際に代入してみます。

計算例|φ10のエンドミルで側面を削る

工具直径 D=10mm、1刃当たりの送り fz=0.05mm という条件で、切込み ae を変えて計算しました。

半径方向切込み ae2ae/D最大切りくず厚さ hmaxfz に対する比率
5.0mm(半径分)1.000.050mm100%
2.0mm0.400.039mm78%
1.0mm0.200.030mm60%
0.5mm0.100.022mm44%
0.2mm(仕上げ)0.040.014mm28%

送りを0.05mmに設定しても、仕上げ代0.2mmの側面加工では、実際に生まれる切りくずは最大でも0.014mm、つまり14μmしかありません。しかもこれは最大値であり、刃が材料に入っている区間の平均はさらに薄くなります。

設定値と、刃先が実際に経験している値は別物です。 この差を知らないまま送りを下げると、状況はかえって悪化します。

同じ厚さでも「順番」が逆であることの意味

ここで大事な点を押さえてください。上向き削りと下向き削りで、最大切りくず厚さの値そのものは変わりません。変わるのは、その厚さが現れる順番です。

  • 下向き削り:入口が最大 → 出口でゼロ
  • 上向き削り:入口がゼロ → 出口で最大

上向き削りでは、刃が材料に触れてからしばらくの間、切りくず厚さがきわめて薄い状態が続きます。先ほどの仕上げ条件なら、0μmから14μmまでの区間をゆっくり通過することになります。

切れ刃には必ずわずかな丸みがあり、意図的にホーニングを施す場合もあります。切りくず厚さがこの丸みより薄いあいだ、刃は材料を切るのではなく押しつぶして滑る状態になります。押された材料表面は硬くなり、次の刃はさらに切りにくい面に当たります。表面が硬くなる現象については加工硬化の仕組みで詳しく解説しています。ステンレスのように加工硬化しやすい材料で、上向き削りの仕上げ面が荒れやすい理由がここにあります。

なお、切れ刃の丸みの具体的な大きさは工具の種類や仕様によって異なります。数値が必要な場合は、使用する工具メーカーの技術資料で確認してください。

総合比較表

ここまでの内容と、工具メーカーおよび工作機械メーカーが公開している知見を一覧にまとめます。

比較項目下向き削り(ダウンカット)上向き削り(アップカット)
切りくず厚さ最大から始まりゼロで抜けるゼロから始まり最大で抜ける
刃先の摩擦少ない薄い切りくず区間で大きい
工具寿命長くなりやすい摩擦熱で短くなりやすい
切削抵抗の向き工作物を工具に引き込む向き工作物を引きはがす向き
びびり生じにくい生じやすい
切りくずの排出切削域に巻き込みやすい排出されやすい
必要な機械剛性高い剛性とバックラッシ対策が必要剛性が低くても加工できる
加工代の変動苦手(黒皮・鋳肌で刃先が欠けやすい)得意
一般的な推奨機械・治具が許すなら第一選択条件が限られる場面で選ぶ

出典:サンドビック・コロマント「ダウンカット vs. アップカット」、芝浦機械「工作機械用語集」

サンドビック・コロマントは下向き削りを「工作機械、治具、ワークが許す場合は常に好ましい方法」と位置づけています。一方で芝浦機械の用語集は、上向き削りについて「工作機械の剛性が低くても切削可能で、仕上がりは光沢面になる」という長所と、「切削部を引きはがす力が働くためにビビりを生じやすい」という短所を挙げています。

それでも上向き削りを選ぶべき3つの場面

下向き削りが基本だと分かっても、上向き削りが不要になるわけではありません。むしろ、選ぶべき場面ははっきりしています。

場面1|黒皮・鋳肌など、加工代が安定しない面

熱間圧延の黒皮材や鋳物の鋳肌は、表面に硬い酸化スケールがあり、しかも取り代が一定ではありません。下向き削りでは刃が最大厚さで硬い層に突入するため、刃先が欠ける危険があります。

サンドビック・コロマントも、上向き削りは「加工代の変動が大きい場合に有利」と述べています。黒皮の1パス目だけ上向き削りにして、2パス目以降を下向き削りに切り替える、という使い分けは実務でよく採られる方法です。材料表面がどのような状態で納入されるかは材料記号から読み取れますので、図面を描く段階で確認しておいてください。

場面2|バックラッシのある汎用フライス盤

下向き削りでは、切削抵抗が工作物を工具に引き込む向きに働きます。ボールねじに予圧をかけたマシニングセンタなら問題になりませんが、送りねじにがたつき(バックラッシ)が残る汎用フライス盤では話が変わります。

引き込む力がテーブルのがたつき分を一気に詰め、送りが飛ぶように進んで工具が食い込むことがあります。工具の破損だけでなく、作業者の安全にも関わる現象です。手送りの汎用機で上向き削りが基本とされてきたのは、この理由によります。

古い機械ほど、上向き削りには合理的な根拠があります。

場面3|工具材種や被削材による制約

工具材種によっても選択は変わります。サンドビック・コロマントは、セラミック工具を使う場合には上向き削りを推奨しています。セラミックは硬い反面もろく、下向き削りの衝撃的な食い込みに耐えにくいためです。

このように、上向き削りは「古い削り方」ではありません。条件が合わないときに正しく選べる、もう一つの選択肢として持っておくべきものです。

現場で失敗する3つの原因と、その対策

加工現場でダウンカット・アップカットにより失敗する3つの原因(内隅、切りくず、薄物クランプ)とその対策を図解したイラスト。設計者が防げる内隅R指示を強調。

削り方を正しく選んでも、失敗が起きることがあります。私が見てきた範囲で多かった原因は、次の3つに集約されます。

原因1|内隅で工具の抱き込み角が急増する

これが最も多く、しかも設計者側で防げる原因です。

先ほどの計算例で、φ10のエンドミルが ae=1mm で直線の壁を削るとき、刃が材料に接している角度(接触角)は約37°でした。ところが内隅に差しかかると、工具は壁に囲まれて接触角が一気に増え、内隅Rが工具半径と同じ場合には約180°に達します。

接触角がおおよそ切削抵抗に比例すると考えると、内隅での負荷は直線部の約5倍になる計算です。急に5倍の力がかかれば、びびりも食い込みも起きます。工具が折れることさえあります。

対策は設計側にあります。内隅のRを、想定する工具半径より2割以上大きく指示してください。φ10(半径5mm)で加工させたいならR6以上といった具合です。図面に「R5」と書いた瞬間に、加工現場は工具を一段細くするか、送りを大幅に落とすかの選択を迫られます。意匠上どうしても小さいRが必要なら、その理由を注記に残しておくと現場の判断が早くなります。

原因2|下向き削りで切りくずを再切削する

下向き削りの数少ない弱点が、切りくずの巻き込みです。切りくずが切削域に残ったまま次の刃が来ると、それを再び削ることになり、刃先が欠けたり仕上げ面に傷が入ったりします。

対策は排出です。クーラントやエアブローの向きを切削点に合わせる、ポケットの深い場所ではステップを分けて切りくずを逃がす、といった現場側の工夫が効きます。設計側でできることとしては、切りくずが溜まる袋小路のような形状(深く狭いポケット、行き止まりの溝)を避ける配慮が挙げられます。

原因3|薄物のクランプが削り方と合っていない

薄板や薄肉部品では、切削抵抗の向きが仕上がりを左右します。下向き削りと上向き削りでは工作物にかかる力の向きが逆になるため、同じクランプでは押さえきれないことがあります。

薄い材料が浮き上がったり逃げたりすれば、寸法も面粗さも成立しません。加工中に材料が動けば、内部の応力バランスも崩れます。削ったあとに部品が反る現象については残留応力と反りの関係で詳しく扱っています。

削り方とクランプはセットで考えるものです。 片方だけを最適化しても答えは出ません。

設計者がこの違いを知っていると、図面が変わります

ここまでの内容を、設計者としての具体的な行動に落とし込みます。加工方向は図面に書けませんが、書けることは確実にあります。

アクション1|内隅Rを「工具半径+α」で指示する

内隅Rは、意匠上の理由がない限り、想定工具の半径より2割以上大きく指示してください。R指示を1段階大きくするだけで、加工現場は下向き削りのまま送りを維持でき、加工時間と工具費が下がります。

逆に、隅Rを小さく指示することでコストがどれだけ増えるかは、設計者からは見えにくい部分です。見えないコストを増やしているのは、たいてい図面の1文字です。

アクション2|面粗さ指示を「削り方」まで含めて考える

Ra1.6のような面粗さ指示は、削り方によって達成しやすさが大きく変わります。上向き削りで薄い切りくず区間が長く続けば、狙いの面が出ないこともあります。

厳しい面粗さを指示する面については、その面が本当にその粗さを必要としているのかを確認し、必要なら加工現場と削り方まで含めて相談してください。面粗さ指示の考え方はRa指示の正しい読み方で詳しく解説しています。

アクション3|材料の性格を踏まえて指示する

ステンレスのように加工硬化しやすい材料では、薄い切りくず区間が長い上向き削りは不利に働きます。材料選定の段階で加工の難易度が決まってしまう、という視点を持ってください。ステンレスの切削で起きることはSUS304の切削加工のコツにまとめています。

アクション4|加工方向を指定したいときの伝え方

どうしても加工方向を指定したい場合は、寸法欄ではなく注記で伝えます。「本面は下向き削りにて仕上げのこと」といった注記です。

ただし、加工方法の指定は加工現場の自由度を奪い、コストが上がる要因にもなります。指定するなら、なぜ必要かを説明できる状態にしておいてください。加工の知識をどう身につけるかについては設計者に加工知識が必要な理由が参考になります。

明日から使えるチェックリスト

図面を出す前に、次の5点を確認してみてください。

  • 内隅Rは、想定工具の半径より2割以上大きいか
  • 深く狭いポケットや行き止まりの溝で、切りくずが逃げられるか
  • 厳しい面粗さ指示を出した面は、本当にその粗さが必要か
  • 薄肉部について、クランプできる面を残しているか
  • 加工方向の指定をした場合、その理由を説明できるか

すべてに答えられれば、図面を渡したあとの問い合わせは確実に減ります。設計者の仕事は、加工者が迷わない図面を出すところまでです。

まとめ|ダウンカットとアップカットの違いは「回転」ではなく「関係」で決まる

最後に要点を整理します。

  • ダウンカットとアップカットの違いは工具の回転方向では決まらず、回転の向きと送りの向きの関係で決まります。JIS B 0106:2016 の定義も「向きと向きとが同じか反対か」で記述されています
  • JISの正式名称は「下向き削り」「上向き削り」であり、ダウンカット・アップカットは現場の通称です
  • 右回転の工具では、進行方向の右手側に材料があれば下向き削り、左手側なら上向き削りです。外形は時計回り、ポケットは反時計回りで下向き削りになり、どちらもG41に対応します
  • 最大切りくず厚さは両者で同じですが、現れる順番が逆です。φ10・fz0.05mm・ae0.2mmの仕上げ条件では最大14μmにしかならず、上向き削りではこの薄い区間を通過するあいだに刃が滑り、面が荒れやすくなります
  • 下向き削りが基本ですが、黒皮・鋳肌のように加工代が変動する場合、バックラッシのある汎用機、セラミック工具を使う場合は上向き削りに合理性があります
  • 設計者にできる最も効果的な対策は、内隅Rを工具半径より2割以上大きく指示することです。内隅では接触角が直線部の約5倍に増えます

加工方向は図面に書かれません。だからこそ、知っている設計者と知らない設計者で、出てくる図面の質に差が出ます。現場が困らない図面を描ける人は、加工の現実を知っている人です。

こうした知識は、独学だけで積み上げるには時間がかかります。今の職場で加工現場と話す機会が少ない、設計の実力が伸びている実感がない、といった悩みを抱えている方は、一度ご自身のキャリアを客観的に見直してみることをおすすめします。

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参考・出典

  • JIS B 0106:2016 工作機械-部品及び工作方法-用語
  • サンドビック・コロマント「ダウンカット vs. アップカット」
  • 芝浦機械「工作機械用語集|上向き削り」
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