「位置決めピンとノックピン、同じじゃないの?」あなたも思っていませんか?
設計の仕事を始めて間もないころ、私自身も同じ疑問を持っていました。図面を見ると「位置決めピン」と書いてあるものもあれば、「ノックピン」と書いてあるものもある。先輩に聞くと「同じようなものだよ」と言われることもあれば、「違うものだ」と言われることもある。
実は、この混乱の正体は「呼び方の文化的な違い」と「厳密な定義の違い」が混在していることにあります。現場では同義語として使われることも多いですが、設計書や規格書を正確に理解するためには、その違いをきちんと理解しておく必要があります。
この記事では、機械設計歴20年以上の私の経験をもとに、位置決めピンとノックピンの違いを丁寧に解説します。読み終えた後には、自信を持って使い分けができるようになるはずです。
まず「位置決め」とは何かを理解しよう

ピンの話をする前に、「位置決め」という概念をしっかり押さえておきましょう。
機械部品を組み立てる際、部品同士の相対的な位置を正確に決める必要があります。たとえば、プレートAとプレートBをボルトで締結する場合、ボルト穴には通常クリアランス(すき間)があるため、ボルトだけでは位置が決まりません。
「ボルトは締結するもの、ピンは位置を決めるもの」——これが基本中の基本です。
私が新人のころ、先輩エンジニアからこう教わりました。「ボルトに位置決めをさせようとするな。それぞれの役割がある」と。この言葉は今でも設計の基本として心に刻んでいます。
位置決めピンは、この「位置を決める」機能を専門に担う部品です。穴とピンの嵌め合いで位置が正確に決まります。
位置決めピンとノックピンの違い——問題の本質

広義の「位置決めピン」とは
「位置決めピン」は、機能を示す一般的な呼称です。部品の位置を決めるために使われるピン全般を指します。形状はさまざまで、円筒形、テーパー形、菱形など、用途に応じて多くの種類があります。
「ノックピン」とは
「ノックピン(knock pin)」は、位置決めピンの中でも特定の形状・用途を持つものを指す場合が多いです。JIS規格では「平行ピン」に分類されることが多く、円筒形で公差が管理された標準品です。
ノックピンの特徴:
- 円筒形(平行ピン)であることが多い
- 嵌め合い公差が厳密に管理されている(m6やh6など)
- JIS B 1354などで規格化されている
- 繰り返しの着脱に対応した設計(内ねじ付きタイプなど)
現場での実態
正直に言うと、現場では「ノックピン=位置決めピン」として使われることがほとんどです。私自身、20年以上の現場経験の中で、「ノックピンを使って位置決めする」という表現を何千回も聞いてきました。
大切なのは呼び方よりも、「適切な嵌め合い公差を選択し、位置決め機能を正確に果たせる設計になっているか」です。
初心者が陥りがちな3つの失敗

失敗①:ノックピンをボルトの代わりに使ってしまう
ノックピンはせん断力(横方向の力)には強いですが、引張力(軸方向の力)には対応していません。締結にはあくまでボルトを使い、ノックピンは位置決め専用として使いましょう。
私の経験では、若手設計者がノックピンを多用しすぎて、メンテナンス時に分解できなくなった事例を何件も見てきました。ノックピンは必要最小限の本数(通常2本)で十分です。
失敗②:嵌め合い公差を正しく選ばない
ノックピンの効果は嵌め合い公差にかかっています。一般的には:
- ピン側:m6(しまりばめ寄り)
- 穴側:H7(基準穴)
この組み合わせでH7/m6という中間ばめ〜しまりばめとなり、がたつきなく位置決めができます。「なんとなく穴を開けた」では精度が出ません。必ず嵌め合い表を確認してください。
失敗③:2本のピン配置を考えない
位置決めには理論上2本のピンが必要です(1本では回転が止まらない)。この2本の配置が重要で、「丸穴+長穴(菱形穴)」の組み合わせが基本です。
2本とも丸穴にしてしまうと、熱膨張や加工誤差で組み立てが困難になります。必ず1本は長穴(または菱形穴)にして、逃げを設けましょう。
私自身も入社2年目のとき、この失敗をやらかしました。2本とも丸穴で設計したプレートが熱膨張で組み立て不能になり、先輩に指摘されるまで原因がわからなかった苦い経験があります。
具体的な解決方法:正しい位置決めピン設計の手順

ステップ1:位置決めが必要か判断する
すべての組み合わせにピンが必要なわけではありません。繰り返し分解・組み立てが必要か、位置精度がどの程度要求されるかを確認してください。
ステップ2:ノックピンの規格品を選ぶ
JIS B 1354(内ねじ付き平行ピン)やJIS B 1355(外ねじ付き平行ピン)などの規格品を使いましょう。直径はM6ボルトと組み合わせるならφ6mm、M8ならφ8mmが目安です。
ステップ3:穴の設計
- 1本目:丸穴 φ6H7(基準穴)
- 2本目:長穴(または菱形穴)幅φ6H7、長さ方向に逃げを設ける
2本のピンの距離はできるだけ離すほど、角度精度が上がります。
ステップ4:抜き取りのことを考える
内ねじ付きノックピンは、ボルトを使って引き抜くことができます。狭い場所や頻繁に分解するアッセンブリには必須です。「どうやって抜くか」まで設計するのがプロの仕事です。
具体的なアクション:今すぐできる3つのこと

アクション1:JIS規格を読む
JIS B 1354(内ねじ付き平行ピン)とJIS B 1355(外ねじ付き平行ピン)を一度通読してください。規格の寸法公差表を見るだけで、設計時の根拠が明確になります。会社にJISハンドブックがあれば借りて読むのがおすすめです。
アクション2:既存図面でノックピンの使い方を観察する
会社の既存図面(特に過去の実績品)を引き出して、ノックピンがどこに、何本、どんな公差で使われているかを確認してください。先人の設計判断から学べることは計り知れません。
私自身も入社時、まず100枚の図面を読み込むことを課題にされました。実際にそれが今の設計力の基礎になっています。
アクション3:嵌め合い公差の早見表を手元に置く
「H7/m6」「H7/p6」などの嵌め合い記号と、それが何μmのすき間・しめしろになるかを示した早見表を印刷して手元に置きましょう。ミスマチ社やミスミ社のカタログにもわかりやすい解説があります。
まとめ:「呼び方」より「機能」を理解することが大切

今回のポイントを整理します。
- 「位置決めピン」は位置を決める機能全般を指す広い概念
- 「ノックピン」は平行ピン(円筒ピン)を指すことが多く、現場では同義語として使われる
- 大切なのは呼び方ではなく、正しい嵌め合い公差の選択・2本配置の設計・抜き取り方法の考慮
機械設計の仕事は、こうした「当たり前だけど意外に深い」知識の積み重ねでできています。最初はわからなくて当然。大切なのは、疑問を持ち続けることと、実際に手を動かして確認することです。
もし「もっと機械設計のスキルを体系的に学びたい」「設計職でキャリアアップしたい」とお考えなら、ぜひ専門家への相談もご検討ください。

