リニアアクチュエータとは、モーターや空気圧の力を直線運動に変える装置の総称です。電動アクチュエータ、電動シリンダ、直動アクチュエータなど呼び方はいくつもありますが、どれも「まっすぐ動かす部品」を指しています。
皆さんが本当に迷うのは、その定義ではないはずです。エアシリンダで済むところに電動を使うべきか、その逆か。 カタログを開いても製品の特長ばかりで、選び分けの基準はどこにも書かれていません。私も若い頃、上司に「なぜ電動にしたのか」と聞かれて、「そのほうが高機能だから」としか答えられず、やり直しになった経験があります。
この記事では、リニアアクチュエータの仕組みを整理したうえで、エアシリンダとの使い分けを数字で比較します。さらに、カタログの推力をそのまま信じてはいけない理由と、垂直軸で必ず確認すべき自己保持の判定方法まで解説しましょう。
カタログを見ても選べない皆さんへ

装置の中で何かをまっすぐ動かしたい。ワークを押し出す、蓋を開閉する、治具を昇降させる。用途ははっきりしているのに、部品が決まらない。
メーカーのサイトを開くと「高速2m/s」「繰り返し精度±5μm」といった性能が並びます。立派な数字ですが、自分の用途にそこまで必要なのかが分かりません。かといって安いエアシリンダで足りるのかも判断できない。
私が新人の頃に担当したのは、検査装置のワーク押さえでした。上司から「電動か、エアか、決めて理由を説明して」と言われ、カタログを2日読み込みました。それでも出てきた答えは「電動のほうが位置決めできるので便利そうです」。
返ってきた言葉は厳しいものでした。「便利かどうかじゃなくて、この装置に必要かどうかを聞いている」。結局その用途は、ワークを一定の力で押さえるだけ。途中で止まる必要はまったくありませんでした。
選定とは、高機能なものを選ぶ作業ではなく、要求に足りるものを選ぶ作業です。 この区別ができるかどうかで、コストも納期も変わります。
リニアアクチュエータの仕組み|3つの駆動方式

選び分けの前に、何がどう違うのかを整理します。
リニアアクチュエータとは何を指すのか
リニアアクチュエータとは、回転や流体の力を直線運動に変換して、対象物を動かす装置です。日本語では直動アクチュエータとも呼ばれます。
分類のしかたは複数ありますが、実務では駆動源で分けるのが分かりやすいでしょう。
| 方式 | 動力源 | 直線運動への変換 |
|---|---|---|
| 空気圧式(エアシリンダ) | 圧縮空気 | 空気の圧力がピストンを直接押す |
| 電動式(電動アクチュエータ) | モーター | ボールねじやベルトで回転を直線に変換 |
| 油圧式 | 作動油 | 油圧がピストンを直接押す |
このうち、工場の装置でもっともよく使われるのが空気圧式と電動式です。油圧式は大きな力が必要な場面に限られます。
電動式の中にもさらに種類がある
電動アクチュエータは、変換機構によってさらに分かれます。
- ボールねじ式:もっとも一般的。高推力で剛性が高く、精度も出しやすい
- ベルト式:長いストロークと高速に向く。推力は小さめ
- リニアモータ式:回転を介さず直接動かす。最高速・最高精度だが高価
メーカーの製品ページで「2m/s」「±5μm」といった数字が並んでいるのは、たいていリニアモータ式です。一般的な搬送や押さえの用途で、そこまでの性能はまず要りません。
変換機構がある以上、必ず損失がある
電動式は回転を直線に変える機構を経由するため、そこで効率が落ちます。ボールねじで一般に90%程度、台形ねじなら30〜50%程度です。
この効率は、後で必要トルクを計算するときに効いてきます。そして自己保持するかどうかも、この効率の違いから決まります。
ロッドタイプとスライダタイプ
もう1つ、形状による分類も押さえておきましょう。
ロッドタイプは、エアシリンダと同じように棒が出入りする形です。置き換えがしやすく、押す・引くという動作に向いています。ただしロッドが伸びるぶんの空間が、本体の後ろ側にも必要になります。
スライダタイプは、本体の上をテーブルが移動する形です。全長がストロークに対して短く収まり、横荷重やモーメント荷重も受けられます。ワークを載せて運ぶ用途に向いています。
| 形状 | 得意な動作 | 設置スペース | 横荷重 |
|---|---|---|---|
| ロッドタイプ | 押す・引く | 前後に長さが要る | 受けられない |
| スライダタイプ | 載せて運ぶ | 本体長さに収まる | 受けられる |
ロッドタイプに横向きの力を掛けると、ロッドが曲がって内部のブッシュを傷める原因になりました。横荷重が避けられない構造なら、スライダタイプを選ぶか、別に案内を設けてください。
リニアアクチュエータの選定で失敗する3つの原因

現場で見てきた失敗を整理しておきましょう。
原因1:要求仕様を書き出す前にカタログを開いている
もっとも多いパターンです。私がやったのもこれでした。カタログを先に見ると、製品の性能に引きずられて要求が歪みます。
必要なのは、次の5つを先に紙に書くことです。
- 動かす質量と姿勢(水平か垂直か)
- 必要なストローク
- 必要な速度とサイクルタイム
- 途中で止まる必要があるか
- 必要な推力と、その保持時間
この5つが決まっていれば、選定は機械的な作業になります。
原因2:カタログの推力を連続で出せると思っている
電動アクチュエータの推力は、モーターの発熱と直結しています。押し当てた状態で電流を流し続ければ、モーターは熱を持ってしまうでしょう。
そのため製品によっては、押し当て動作の時間や使用率(デューティ)に制限が設けられています。カタログの最大推力は、瞬間的に出せる値である場合があるわけです。
たとえば「押し当て時間は連続で○秒以内」「使用率50%以下」といった条件が、仕様表の注記や取扱説明書に小さく書かれていることがあります。仕様表の推力欄だけを見て選ぶと、この注記を読み飛ばします。
実際に起きるのは、装置を組んでから数十分後の過負荷アラームです。計算も選定も間違っていないのに動かないという、原因のつかみにくいトラブルになります。ワークを押さえ続ける用途では、この確認を必ず入れてください。
なお、押さえ続ける動作そのものが要求なら、エアシリンダのほうが素直です。空気圧は押し続けても発熱しません。
原因3:垂直軸で自己保持の確認をしていない
もっとも危険なのがこれです。ボールねじは効率が高いため、電源を切ると負荷の重さで逆回転し、落下します。
垂直軸に使うなら、ブレーキ付きモーターを選ぶか、機械的な落下防止を別に設ける必要があります。この確認を飛ばすと、停電時に人が下敷きになる事故につながります。
3つの原因を整理します。
| 原因 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 要求を書く前にカタログを見る | 過剰仕様・高コスト | 5項目を先に紙に書く |
| 推力を連続で出せると誤解 | 発熱でアラーム停止 | デューティ制限を確認する |
| 自己保持を確認していない | 停電時に落下する | ブレーキか落下防止を付ける |
【比較】エアシリンダと電動アクチュエータ、どちらを選ぶか

ここが本記事の中心です。両者を数字で比べます。
推力を計算して比べる
エアシリンダの推力は、圧力と受圧面積の積で求まります。内径φ40、供給圧力0.5 MPaで計算します。
押し側 F = 0.5 N/mm² × π × 20² ≒ 628 N
引き側はロッドの断面積が引かれるぶん、小さくなる点に注意してください。ロッド径φ16とすると、次のとおりです。
引き側 F = 0.5 × π × (20² − 8²) ≒ 528 N
引き側は押し側の84%しか出ません。 エアシリンダを引く方向で使うときは、この差を必ず見てください。
同じ推力を電動で出すには
628 Nを電動アクチュエータで出す場合、必要なモータートルクを計算します。ボールねじのリード5 mm、効率90%とします。
T = F × L ÷ (2π × η) = 628 × 5 ÷ (2π × 0.9) ≒ 0.56 N·m
0.6 N·m級のモーターが必要、という結論です。トルクの計算そのものに不安がある場合は、モーターのトルク計算で単位の扱いから整理しました。

速度を比べる
同じ構成での最高速度も計算しておきます。モーター回転数3,000 min⁻¹なら、次のようになります。
v = 5 mm × 3,000 ÷ 60 = 250 mm/s
一方エアシリンダなら、条件次第で500 mm/s程度まで普通に出るでしょう。単純な往復動作の速さでは、エアシリンダに分があります。
総合比較表
| 項目 | エアシリンダ | 電動アクチュエータ |
|---|---|---|
| 停止位置 | 両端の2点が基本 | 任意の位置に停止できる |
| 速度制御 | スピコンで粗く調整 | 加減速まで細かく制御 |
| 推力の変更 | 圧力で全体が変わる | 動作ごとに変えられる |
| 初期コスト | 低い | エアの2〜5倍程度 |
| 必要な設備 | コンプレッサ・配管 | ドライバ・配線 |
| 応答の速さ | 速い | やや遅い |
| 停電時の挙動 | 残圧で動く場合がある | 即座に停止(落下に注意) |
ランニングコストは逆転する
初期コストは電動のほうが高くなりますが、運転してからのコストは逆転します。
エアシリンダを動かすには圧縮空気が要り、その空気はコンプレッサが電気を使って作っています。圧縮空気は一般に、同じ仕事をさせる電力の数倍のエネルギーを消費すると言われます。空気を圧縮する段階で熱として大量に逃げるうえ、配管の漏れも避けられないためです。
工場のエア配管には、目に見えない漏れが必ずあります。継手やチューブの微小な漏れが積み重なり、コンプレッサは止まりません。「使っていないのに電気代がかかる」のがエアの特徴です。
したがって、次のような使い分けになります。
- 台数が少なく、たまにしか動かさない → 初期コストの安いエア
- 台数が多く、24時間動かし続ける → ランニングで有利な電動
新規ラインの計画では、初期費用だけでなく数年分の運転費で比べてみてください。台数が増えるほど、電動の回収期間は短くなります。
位置決め精度で決まる場合もある
もう1つ、判断が一発で決まる基準があります。繰り返し位置決め精度です。
エアシリンダは両端のストッパで止まるため、その2点の繰り返し精度は高く、一般に±0.1 mm以下に収まります。ところが途中の任意位置には止まれません。中間停止機構を付ける方法もありますが、精度も信頼性も落ちます。
電動アクチュエータなら、ボールねじ式で繰り返し±0.02 mm程度、リニアモータ式では±0.005 mm程度まで狙えます。しかもその精度は、ストローク上のどこでも得られるものです。
| 要求 | 適する方式 |
|---|---|
| 両端2点だけ・±0.1 mm | エアシリンダ |
| 任意位置・±0.05 mm程度 | 電動(ボールねじ式) |
| 任意位置・±0.01 mm以下 | 電動(リニアモータ式) |
「任意の位置で、精度よく止めたい」という要求があるなら、その時点で電動に決まりでしょう。 逆にこの要求がないなら、電動を選ぶ理由を別に説明できなければなりません。
判断の目安
数字と表を踏まえた、実務での判断基準は次のとおりです。
- 途中で止まる必要がないなら、エアシリンダで十分です
- 停止位置を変えたい、力を変えたい、記録を残したいなら電動を選びます
- 単純な往復を高速で繰り返すなら、エアシリンダのほうが速くて安いです
- クリーンルームや騒音を嫌う環境では電動が有利になります
私が新人のときに担当した「ワークを押さえるだけ」の用途は、完全にエアシリンダの領域でした。エアシリンダ側の詳しい選定手順はエアシリンダの選び方にまとめています。

【検証】垂直軸で落下するかどうかを判定する

電動アクチュエータを垂直に使うとき、電源を切ったら落ちるのか。これは計算で判定できます。
自己保持の条件はリード角と摩擦角の大小
ねじが自分で止まる(自己保持する)かどうかは、リード角が摩擦角より小さいかで決まります。
リード角 λ = arctan( リード L ÷ (π × 有効径 d) )
摩擦角 ρ = arctan( 摩擦係数 μ )
λ < ρ なら自己保持する
ボールねじの場合
φ16、リード5 mmのボールねじで計算してみましょう。ボールねじは転がり接触のため、摩擦係数は0.003程度と非常に小さい値です。
λ = arctan(5 ÷ (π × 16)) = 5.68°
ρ = arctan(0.003) = 0.17°
λ(5.68°)のほうが大きいため、自己保持しません。電源を切れば負荷の重さで逆回転します。
台形ねじの場合
同じ呼び径で、Tr16×4の台形ねじを計算します。すべり接触なので摩擦係数は0.15程度です。
λ = arctan(4 ÷ (π × 16)) = 4.55°
ρ = arctan(0.15) = 8.53°
今度はλのほうが小さいため、自己保持します。
判定結果を整理する
| 方式 | リード角 | 摩擦角 | 自己保持 | 垂直軸での扱い |
|---|---|---|---|---|
| ボールねじ φ16・L5 | 5.68° | 0.17° | しない | ブレーキ必須 |
| 台形ねじ Tr16×4 | 4.55° | 8.53° | する | それでも過信しない |
効率が高いことと自己保持することは、完全に裏返しの関係にあります。 ボールねじは効率90%という長所を持つ代わりに、逆駆動されやすいという性質を持っています。
台形ねじでも過信してはいけない
表で「する」と書きましたが、これを安全装置として当てにするのは危険です。摩擦係数は潤滑状態・面圧・温度で変わり、振動が加われば実質的に下がります。
メーカーも自己保持を保証していないのが通常です。人が下に入る可能性がある場所では、必ずブレーキか機械的なストッパを設けてください。 計算はあくまで傾向をつかむためのものです。
リニアアクチュエータ選定の4ステップ

ここまでを踏まえ、実際の選定手順に落とし込みます。
STEP1:要求仕様を5項目書き出す
先ほど挙げた5つを紙に書きます。カタログはまだ開きません。
質量・姿勢・ストローク・速度・停止位置の要否、そして推力と保持時間。この段階で「途中で止まる必要があるか」にはっきり答えられれば、電動かエアかはほぼ決まります。
STEP2:必要推力を計算する
水平なら摩擦力、垂直なら重力が主な負荷になります。
- 水平:F = μ × m × g(μは案内の摩擦係数)
- 垂直:F = m × g(これに加速分を足す)
たとえば20 kgを垂直に持ち上げるなら、F = 20 × 9.81 ≒ 196 Nです。ここに加速分を足します。
0.2秒で200 mm/sまで立ち上げるなら、加速度は 0.2 m/s ÷ 0.2 s = 1 m/s²。加速に必要な力は次のとおりです。
Fa = m × a = 20 × 1 = 20 N
合計すると 196 + 20 = 216 N。ここに安全率を掛けて、必要推力とします。安全率2なら432 Nですから、定格推力500 N級の製品を探すことになります。
加速時間を0.05秒に縮めた場合、加速度は4 m/s²、加速力は80 Nに増えました。速く動かしたいほど必要推力が増えるという関係を、この段階で数字として把握しておいてください。安全率の決め方は安全率の考え方を参考にしてください。

STEP3:速度からリードと回転数を決める
必要速度を満たすリードと回転数の組み合わせを探します。
速度 v[mm/s]= リード L[mm]× 回転数 N[min⁻¹]÷ 60
リードを大きくすれば速くなりますが、同じ推力を出すのに必要なトルクも増えます。 速度と推力はトレードオフの関係にあると理解してください。
STEP4:デューティと自己保持を確認する
最後に、見落としやすい2点を確認します。
- 押し当て動作の時間制限(デューティ)がカタログにないか
- 垂直軸なら、自己保持の有無とブレーキの要否
この2つを確認して初めて、選定が完了します。
図面と仕様書に残すこと
選定の根拠は、必ず文書に残してください。
- なぜ電動(またはエア)を選んだのか、判断した理由
- 計算した必要推力と、選定品の定格推力
- 垂直軸の場合、落下防止をどう確保したか
「前の機種と同じだから」は根拠ではありません。 後任者が条件の変わった案件を担当したとき、判断のしようがなくなります。
環境条件を最後に確認する
見落とされやすいのが設置環境です。次の3つは、選定の最後に必ず確認してください。
- 粉塵・水濡れ:保護等級(IP)の指定が要るか。電動は基本的に水に弱く、洗浄する環境ではエアや専用品を検討します
- 温度:高温環境ではモーターの許容温度を超えることがあります。逆に低温では潤滑剤が固くなります
- 振動:外部から振動が入ると、ボールねじの微小振動摩耗(フレッチング)が起きることがあります
カタログの性能値は、常温・清浄な環境で測った値です。 実際の設置場所がそれと違うなら、余裕を見るか、環境に合った製品を選び直してください。
分解を前提にした設計は避ける
最後にもう1点。リニアアクチュエータは内部にねじ・軸受・シール・スペーサが精密に組み込まれた製品です。現場で分解すると、元に戻せなくなることがあります。
ストロークを変えたい、仕様を変えたいという要求が出たときは、分解ではなく型式の変更で対応するのが原則です。設計段階で、後から変わりそうな要素を洗い出しておくと、この問題を避けられます。
まとめ|選定とは要求に足りるものを選ぶこと
リニアアクチュエータの選定は、性能の高いものを探す作業ではありません。要求仕様を先に固め、それに足りるものを選ぶ作業です。
この記事の要点を整理します。
- リニアアクチュエータは回転や空気圧を直線運動に変える装置で、実務では空気圧式と電動式が主流です。
- 内径φ40・0.5 MPaのエアシリンダは押し側628 N、引き側528 N。引き側は84%に下がります。
- 同じ628 Nを電動で出すには、リード5 mmのボールねじで約0.56 N·mのトルクが必要です。
- 途中で止まる必要がなければエアシリンダで十分で、速度も安さも有利になります。
- ボールねじはリード角5.68°に対し摩擦角0.17°で自己保持せず、垂直軸ではブレーキが要ります。
私が「電動のほうが便利そうです」と答えてやり直しになったとき、足りなかったのは知識ではありませんでした。要求仕様を先に書き出すという、たった1つの手順が抜けていただけです。
カタログを開く前に、紙に5行書いてください。 その5行があれば、選定で迷う時間は大きく減ります。
技術の判断ができるようになるほど、「この進み方で合っているのか」という不安を感じる方も多いはずです。選定はできるようになったけれど評価につながらない、独学の方向が正しいか分からない。そうした迷いは、一人で抱え込むほど答えから遠ざかります。
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