「設計した部品が現場で想定外の振動を起こした…」
そんな経験、あなたにはありませんか?
CAEで固有振動数を確認し、共振しないはずだと確信していたのに、実際の稼働環境では激しく振動してしまった。こういった事例は、機械設計の現場で決して珍しくありません。
実は、固有振動数は「一定」ではないのです。
荷重がかかった状態、温度が変化した状態では、同じ部品でも固有振動数は変化します。私自身も設計エンジニアとして20年以上キャリアを積む中で、この”固有振動数の変化”を見落としたために試作品の振動トラブルを経験し、痛い思いをしたことがあります。
この記事では、固有振動数が荷重・温度によってどのように変化するのか、そしてそれを踏まえた実践的な設計対策を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
そもそも「固有振動数」とは何か?

固有振動数(固有周波数)とは、物体が外力を受けたときに最も振動しやすい周波数のことです。英語では “Natural Frequency”(ナチュラルフリクエンシー)と呼ばれます。
単純な1自由度系(バネ・マス系)の固有角振動数 ωₙ は次の式で表されます:
ωₙ = √(k / m)
ここで k はバネ定数(剛性)、m は質量です。つまり、剛性が高いほど固有振動数は上がり、質量が重いほど下がるというシンプルな関係です。
機械設計において固有振動数の把握が重要なのは、「共振」を回避するためです。運転中の励振周波数(モーターの回転数やポンプの脈動など)が固有振動数に近づくと、振幅が急激に大きくなり、最悪の場合は破損・破壊につながります。
問題の本質:固有振動数は”静的な値”ではない

教科書や入門書には「固有振動数 = √(k/m)」という式が載っており、材料と形状が決まれば一意に決まるように思えます。しかし、実際の機械部品は常に力学的・熱的な影響を受けており、その「k(剛性)」は変化します。
私が以前担当したプロジェクトで、回転軸に大きなプリロード(予圧)をかけた軸受けユニットがありました。無荷重状態でのモーダル解析では問題なかったにもかかわらず、実運転時にはホワイリングと呼ばれる共振現象が発生しました。原因は、荷重によって軸の動的剛性が変化し、固有振動数がシフトしたためでした。
「設計時と稼働時で条件が変わる」——これが固有振動数の変化を引き起こす本質的な問題です。
固有振動数が変化する3つの原因

原因① 荷重による剛性変化(応力剛化・応力軟化)
部材に引張荷重が加わると、剛性が高くなる「応力剛化(Stress Stiffening)」という現象が起きます。逆に、圧縮荷重が加わると剛性が低下する「応力軟化(Stress Softening)」が生じます。
代表例としてよく挙げられるのが「ギターの弦」です。弦を強く張る(引張力を加える)と音が高くなる、つまり固有振動数が上がりますよね。これがまさに応力剛化です。
機械設計においても、ボルト締結によるプリロード、ベルトの張力、大型構造物に作用する重力荷重などが、部品の見かけの剛性を変化させ、固有振動数のシフトを引き起こします。
有限要素解析(FEA)では、「前処理として静解析→その応力状態を初期条件に固有値解析」という手順を踏むことで、荷重下での正確な固有振動数を算出できます。
原因② 温度による材料特性の変化
金属材料のヤング率(縦弾性係数)は温度が上昇すると低下します。鉄鋼材料では、常温から500℃まで温度が上昇すると、ヤング率はおよそ20〜30%低下します。
固有振動数は剛性(≒ヤング率)の平方根に比例しますから、ヤング率が20%低下すると固有振動数は約10〜11%低下することになります。
私自身も排気系部品の振動解析を担当したとき、常温での解析では問題なしという結果だったにもかかわらず、エンジン稼働後の高温状態(約400℃)で共振が発生しました。原因は温度によるヤング率低下で固有振動数が運転周波数帯域に入り込んだためでした。
高温環境で使用する部品は、必ず使用温度域でのヤング率を使用して固有値解析を行うことが不可欠です。
原因③ 境界条件(支持・拘束状態)の変化
固有振動数は、部品単体の特性だけでなく、その部品がどのように支持・拘束されているかによっても大きく変わります。
例えば、同じビームでも「両端固定」と「片持ち梁」では固有振動数が大きく異なります。また、接触・摩擦が伴う締結部では、荷重や温度の変化によって接触状態(接触面積・摩擦係数)が変わり、実効的な境界条件が変化します。
ボルト締結フランジなどでは、熱膨張によって締結力が変化し、接触剛性が変わることで構造全体の固有振動数がシフトすることも珍しくありません。
解決方法:振動トラブルを未然に防ぐ設計アプローチ

固有振動数の変化を考慮した設計は、「解析精度を上げること」だけではありません。以下の4つのアプローチを組み合わせることが重要です。
アプローチ① 荷重状態を反映した固有値解析(プレストレスモーダル解析)
ANSYSやABAQUSなどの汎用FEAソフトウェアでは、静解析で得た応力場を初期条件として固有値解析を実施する「プレストレスモーダル解析」が可能です。荷重環境を正確に再現した上で固有振動数を算出することで、設計精度が格段に向上します。
アプローチ② 温度依存材料データの使用
材料データベース(MatWeb等)や材料メーカーの技術資料から、使用温度範囲でのヤング率・密度・ポアソン比を取得し、温度依存材料モデルとして解析に組み込みます。高温環境での使用が想定される部品では、この手順を省略してはなりません。
アプローチ③ 共振余裕(Margin)を大きく設定する
設計段階では、運転周波数に対して固有振動数が十分な余裕(一般的には±20〜30%以上)を持つように設計します。固有振動数がシフトしても共振しないよう、余裕を確保しておくことがリスクヘッジになります。
アプローチ④ 実機での振動計測と検証
解析はあくまでもシミュレーションです。最終的には加速度センサー(加速度計)を使った実機計測を行い、解析結果との整合性を確認することが不可欠です。特に荷重がかかった実運転状態でのモーダルテスト(ODS: Operating Deflection Shape)は非常に有効です。
具体的なアクション:あなたが今日からできること

「でも、いきなり高度な解析は難しい…」と感じている方も多いと思います。そこで、経験レベル別に取り組みやすいアクションをご紹介します。
初心者設計者の方へ
まずは1自由度系(バネ・マス系)のモデルで固有振動数を手計算で求める練習をしてみてください。ωₙ = √(k/m) の式を使い、「kが変化したら固有振動数はどう変わるか」を肌感覚として理解することが第一歩です。
「計算式を手で動かす」ことで、変数の意味と影響度が直感的にわかるようになります。
CAE初学者の方へ
無償の有限要素解析ツール「FreeCAD」や「SimScale(無料枠)」を使い、シンプルな片持ち梁の固有値解析を試してみてください。境界条件(固定端の位置や方向)を変えると固有振動数がどう変わるかを体験することで、実務感覚が養われます。
実務設計者の方へ
今担当している部品について、「実際の使用荷重・温度条件を反映したプレストレスモーダル解析を実施しているか?」を確認してみてください。もし静的条件のみの解析にとどまっているなら、今日から変えるチャンスです。
まとめ:「設計時」と「稼働時」の違いを意識せよ

この記事でお伝えしたことを整理します。
固有振動数は、荷重(応力剛化・応力軟化)、温度(ヤング率変化)、境界条件(支持状態・接触状態)によって変化します。設計時の無荷重・常温状態での解析結果だけでは、実際の稼働環境での振動特性を正確に捉えきれません。
「設計書の数字」と「現場の現実」を近づけるためには、実際の使用条件を忠実に再現した解析と実機検証の組み合わせが不可欠です。
振動設計は、経験と理論の両輪があってこそ本物のスキルになります。私自身も数々のトラブルと向き合いながら、この感覚を身に付けてきました。
もし「自分の設計でも振動トラブルが起きそうで不安」「解析のやり方を体系的に学びたい」と感じているなら、ぜひ一度プロに相談してみてください。
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