「CADで部品を一体モデルにしたら、組立要領図が作れないって言われた……」
こんな経験、ありませんか?
機械設計の仕事をはじめたばかりのころ、私も同じ壁にぶつかりました。データ容量を減らしたい、アセンブリの手間を省きたい――そう思って工夫したことが、製造・組立の担当者からクレームになる。そのとき感じた「なんで正しいことをしているのに怒られるんだろう」という戸惑いは、今でも鮮明に覚えています。
この記事では、20年以上の機械設計経験をもとに、CADボルト・ワッシャの一体モデル化が引き起こす本当の問題と、現場でうまく活用するための実践的な考え方をお伝えします。
1. 問題の本質:「設計の都合」と「製造の都合」は別物

設計者の視点から見ると、ボルト・ばねワッシャ・平ワッシャを一体のCADモデルにまとめることは、とても合理的に思えます。ファイル数が減り、アセンブリも軽くなる。繰り返し配置するのも楽です。
しかし、製造・組立の担当者は「部品の一つひとつが独立した存在」として図面や要領書を読むのです。
たとえば、組立要領図では「M8ボルトを1本」「ばねワッシャを1枚」「平ワッシャを1枚」という形で部品リストに載せ、それぞれのトルク管理や購入先コードを紐付けます。一体モデルにしてしまうと、この「個別の部品」という概念が崩れ、組立要領図を作る人が混乱してしまいます。
これは設計者の工夫が間違っているのではなく、「誰のための情報か」という視点が抜け落ちていただけです。この本質を理解すれば、解決策は自然に見えてきます。
2. 一体モデル化が問題を生む3つの原因

原因① BOM(部品表)の自動生成が崩れる
最近のCADシステム(SolidWorks、CATIA、Creo等)は、アセンブリデータから部品表(BOM:Bill of Materials)を自動で生成する機能があります。ボルトとワッシャを一体モデルにすると、BOM上では「1点の部品」として扱われてしまいます。
私自身も、新人時代に一体モデルで設計した図面が製造部門に回ったとき、「部品点数が足りない」と指摘されて慌てて修正した経験があります。部品表が自動生成される環境では、モデルの構成がそのまま発注数量や在庫管理に直結するため、一体モデルは致命的なミスになりかねません。
原因② 組立要領図に「部品番号」が振れない
組立要領図(作業標準書とも呼ばれます)には、各部品に固有の番号を振り、それを手順書に記載します。「部品番号〇〇のボルトを△△トルクで締め付ける」という形です。一体モデルには「ボルト」「ワッシャ」それぞれに別の番号を振ることができません。
現場の作業者は図面の番号を頼りに部品を選ぶので、番号がなければ作業ミスのリスクが一気に上がります。これが、製造組立の担当者が「一体モデルでは要領図が作れない」と言う理由です。
原因③ 設計変更時の追跡が困難になる
機械設計では、試作段階でボルトのサイズを変えたり、ワッシャを省略したりといった設計変更が頻繁に起こります。個別モデルであれば「ボルトをM8からM10に変更」と明確に変更履歴を残せますが、一体モデルでは「ボルトワッシャセットを変更」という粒度の荒い記録になってしまいます。
後から設計履歴を追うとき、あるいはトラブルが起きて原因を究明するとき、この曖昧さは大きな障害になります。設計の責任を明確にするためにも、部品の粒度は適切に保つことが重要です。
3. 解決方法:用途に応じてモデルを使い分ける
「では一体モデルは使ってはいけないのか?」というと、そうではありません。使う場面と目的を明確にすれば、一体モデルは非常に有効なツールになります。
解決策① 「参照用モデル」として位置づける
一体モデルを「アセンブリの参照確認用」に限定して使うという方法があります。干渉チェック(クリアランスの確認)や全体の外観確認には一体モデルを使い、部品表生成や図面作成には個別モデルのアセンブリを使う、という使い分けです。
この運用をするには、CADのフォルダ構成やファイル命名規則で「参照用」と「正式用」を明確に区別するルールを設けることが重要です。私の職場では、ファイル名の末尾に「_REF」をつけることで参照用と正式用を区別していました。
解決策② 標準品はライブラリから個別に配置する
ボルト・ナット・ワッシャといった標準部品は、CADの標準部品ライブラリ(Toolbox、SolidWorks等に付属)から個別に配置するのが基本です。ライブラリから配置された部品は、自動的に部品番号や型番の情報をもつため、BOMへの反映がスムーズです。
手間が増えると感じるかもしれませんが、後工程での手戻りを考えれば、長期的には作業時間を大幅に削減できます。
解決策③ 製造・組立担当者と事前にルールを確認する
これが最も重要な解決策です。設計者が「便利だから」と始めた工夫が問題になる多くの場合、そのルールが関係部署と合意されていないことが原因です。
プロジェクト開始前に「どのレベルの粒度でBOMを管理するか」「組立要領図はどのCADデータから生成するか」を製造・品質・購買の担当者と確認しておきましょう。設計の自由度は、関係者との信頼関係があってはじめて生まれます。
4. 具体的なアクション:明日からできる実践ステップ

ステップ1:自社のBOMルールを確認する
まず、あなたの会社でどのようにBOMを管理しているかを確認してください。ERPシステム(SAP、生産管理ソフト等)と連携している場合は、特にルールが厳格なことが多いです。社内の先輩設計者や生産技術の担当者に「標準部品のCADモデルはどう管理していますか?」と聞くのが一番の近道です。
ステップ2:一体モデルの使用範囲を明文化する
もし一体モデルを使うなら、その使用目的と範囲をルール文書(設計標準書や作業手順書)に明記しましょう。「干渉チェック専用」「外観確認のみ」など、用途を限定することで混乱を防げます。
私自身、この「ルールの明文化」を怠って何度も手戻りが発生した経験があります。「なんとなくみんなやってる」ではなく、文字に落とすことで初めてルールになると実感しました。
ステップ3:組立要領図を実際に作ってみる
設計者自身が、自分のCADデータから組立要領図を作成してみることを強くおすすめします。「これは図面にならない」「部品番号が振れない」という問題を、自分で体感することで、設計段階での意識が変わります。
設計と製造を行き来する視点をもつことが、現場から信頼される設計者への第一歩です。
ステップ4:CADのフォルダ・ファイル管理を整理する
参照用モデルと正式用モデルを混在させないため、フォルダ構成を整理しましょう。たとえば「DESIGN(正式設計データ)」「REFERENCE(参照用・確認用データ)」「LIBRARY(標準部品ライブラリ)」のように分類することで、誰が見ても「どのデータが正式か」が一目でわかります。
5. まとめ:設計の工夫は「誰のためか」を常に考える

CADボルト・ワッシャの一体モデル化は、設計者の立場では合理的な工夫です。しかし、設計データは設計者だけが使うものではありません。
製造、組立、購買、品質管理――さまざまな人が同じデータを使って仕事をしています。自分の工夫が「誰のためのものか」を意識することで、現場全体の効率が上がり、あなたへの信頼も高まります。
20年以上の設計経験を通じて私が学んだのは、「良い設計者は、図面の先にいる人の仕事まで想像できる」ということです。
今日の内容を参考に、ぜひ自社の設計ルールを見直してみてください。
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